あいさつ

新しい生命科学「生命機能科学」を研究しよう

2014年度生命機能学科主任 山本 兼由 教授

生命機能学科は、21世紀の新しい生命科学として提案する「生命機能科学」の最先端教育研究を実現するため、2006年度に工学部に設置され、設立8年目を迎えます。これまでに5期の300名以上の卒業生を送り出しており、社会人として多方面で活躍されています。今年度は、生命科学部生命機能学科設置の完成年度に伴い、さらに充実させた新カリキュラムを編成し、それをスタートさせた2年目にあたります。新カリキュラムでは、本学科のディプロマ・ポリシーの実現とそれを支えるカリキュラム・ポリシーの強化を目的に、体系的な専門科目の編成や低学年からの実践的技術習得の科目の効率的な修得プラグラムなどを導入しました。これにより、本学科のユニークな教育研究の一つである、低学年からの知識や理論と実践的技術の修得の相乗効果による効率的な教育をより具現化できると期待しています。

さて、21世紀はじめのヒトゲノム全遺伝情報の解読で象徴されるように、生命科学が新しく展開しています。20世紀半ばのDNAの2重らせん構造の発見以降、いくつかの生命現象が個々の遺伝因子や個々のタンパク質分子の機能として理解されてきました。ゲノムの全遺伝因子の解読は、細胞を遺伝子およびタンパク質の機能を総合するシステムとして理解できると考えられていました。しかし、10,000種類を越える生物のゲノムが解読された現代生命科学でも、それは達成できていません。その大きな理由は、細胞の多様な生命機能が、ゲノム上の個々の遺伝子機能や個々のタンパク質機能の単純な総和ではなく、それらの個々の分子の機能に加え、分子間で生じる相互作用によって成立しているからです。さらに、細胞をとりまく微細な環境の変化は、結果として細胞内の遺伝子やタンパク質の機能や相互作用が変換され、同じ細胞でも個々のふるまいに違いが生じているに違いありません。これらを背景に、本学科では、ゲノム機能と蛋白質機能の「分子個性学」と「細胞個性学」に立脚した、新しい生命科学「生命機能科学」を提案しています。

現代の生命科学は、生物学を基礎として医学、薬学、農学、工学など多分野に展開する新しい学問へと変遷しています。そのような背景から、「生命機能科学」の研究を通して、広い視野と実践力をもつ人材育成が本学科の目的です。そのためには、生命科学の専門知識はもちろんですが、グローバル化に対応できる語学力や国際的文化の認識、再生医療などから透けて見える変革している生命観、研究者として高い倫理観などに適応できる広い教養を身に付ける必要があります。そこで、本学科のカリキュラムでは、生命科学の学びをゲノム機能コース、蛋白質機能コース、細胞機能コースとして設定するとともに、人文社会や語学を含む教養科目と学科横断的な専門科目が設定されています。また、海外での留学制度であるスタディ・アブロード(SA)プログラムも設けています。このカリキュラムの最も大きな特徴は、2年生より研究室に配属し、「生命機能科学」の最先端研究を行う科目も設定していることです。この最先端の研究を通して、自ら課題を設定し、その解決を目指す戦略をたて、実証し、そして客観的な論理性に基づいた検証、さらに本学科の専任教員や学生で議論することで、総合的視野をもつことができます。これまでの卒業生では、大学院へ進学し、より高度な生命科学の研究に挑戦もしています。修士課程修了者には、大手企業で研究をしたり、博士号取得を目指して進学するなど多方面で活躍しています。

「生命とは何?」のような純粋な知的好奇心に対して、正面から向かい、学生諸氏とともに新しい生命科学を切り開きたい、そのようなモチベーションが本学科の教育研究を特徴づけています。私たち専任教員も各専門分野で活発に研究を行い、得られた成果は国内外で高い評価を受けています。この「生命機能科学」の最先端研究を多くの学生たちと一緒にできることを私たちは楽しみにしています。